第2章|企業型DCと海外株の学び――分散とスイッチングの罠

企業型確定拠出年金(DC)の扉が開いた日

会社の会議室。白いスクリーンに資料が映し出された瞬間、私は少し背筋を伸ばした。
「今後は退職金の一部をご自身で運用していただきます」
証券会社の講師の一言に、場の空気が変わる。

これまで会社任せだった退職金の一部を、自分の判断で運用する時代になったのだ。
企業型確定拠出年金の運用開始が始まった。

拠出額は月2万3,000円(当時)。
用意された商品の中から配分を決め、利益も損失も自分の選択の結果として引き受ける。
その覚悟が、なぜか心地よかった。
「なんて面白い制度なんだ!」
胸の中で、小さく声が弾んだ。

会社任せでなく、自分の運用次第で退職金額が変わる。
すばらしい!


投資信託との出会い|“分散を1本で買う”という発見

商品ラインナップには「国内株式インデックス」「先進国株式」「バランス型」など、聞き慣れない名前が並んでいた。

説明を聞くうちにわかったのは、投資信託とは“みんなのお金を集めてプロが分散運用する仕組み”だということ。

少額から、国内外の多くの銘柄に広く投資できる。元本確保の定期預金型も選べる。

おもしろい。
“1本で分散”というのは、当時な私には理解できていなかったけどね。


はじめの配分と勘違い

私は海外株式・海外債券・国内株式を各1/3でスタートした。
正直なところ、「年数もそこまで長くないし、損しても元金は小さい。
リターンが大きいほうがいい」というギャンブル気質が顔を出していた。

のちに気づく
本当は逆だ。

投資期間が長い若いほどリスクを取りやすく、期間が短いほど慎重であるべき。
当時の私は約20年の時間を持っていた。

結果的に大きな失敗にはならなかったのは、市場が良かっただけだったね。


海外投資の現実|“株価×為替”という二重の波

海外比率を高めると、評価額は株価の変動に為替が掛け算される。

朝のニュースで「ドル円120円」と聞けば、通勤電車の中で自然と自分の資産を換算してしまう。
楽しい。

けれど、揺れる。
この“楽しさ”が、のちに私をスイッチング(商品乗り換え)の誘惑へ連れていく。


ギャンブル気質の芽生え|情報と評価額のアドレナリン

DCの評価通知は半年に一度、封書で届いていた。

ところがネットでリアルタイムに確認できるようになると、私は毎日の値動きに一喜一憂し始めた。

TV東京の「モーサテ」を早朝から見て、世界のニュースと基準価額を結びつけるのが日課になる。
「もっとリターンの良い商品は?」と、限られた選択肢の中で“速く増えるもの”探しが加速した。

「モーサテ」を見ていて勉強になったこと。それは
「専門家は過去のことはよくわかるが、未来のことは全然わからない」
ってこと。


スイッチングの誘惑|手数料ゼロでも“見えない損”

DCの管理画面には「スイッチング」ボタン。
しかも手数料ゼロ

ゼロという数字は、行動のハードルを下げる。

上がっているファンドに乗り換え、下がれば別へ。
スイッチングすること自体が楽しく、自分がトレーダーになったような錯覚に浸っていた。

だが、後で履歴を見返して愕然とする。
多くの乗り換えが、上がった後に買い、下がった後に売るという最悪のパターンだったのだ。
手数料はゼロでも、パフォーマンスの取りこぼしという“見えない損”は確かに存在した。


周囲との比較をやめる|投資は自己責任

リーマンショックのような暴落が起これば、元本確保型(定期)を選んだ同僚はほとんど動じない。

一方で私は、評価額の上下に心を振り回されがちだった。
落ち込む日もあったが、「勝負を選んだのは自分」と腹を括るしかない。

そして学んだ——投資の正解は他人と比べて勝つことではなく、自分がきめた配分に責任を持つことだ。


DC商品群の限界に気づく

やがて、DCで選べる商品は市場に存在するすべてではないと知る。

手数料は総じてやや高めで、当時は「オルカン」や「S&P500」系の低コスト商品も無かった(少なくとも私のプランには)。

それでも、投資信託・海外投資・為替リスク・スイッチングを実践で学べたのは、大きな収穫だった。


ルール化の決断|“やらない勇気”を仕組みにする

スイッチング履歴を眺めて、私は決めた。

  • 自動積立でガチホールドする
  • 「投資は自己責任」(リスク許容度)あたふたしない
  • 直近成績ではなく、コスト・中身・長期の合理性で選ぶ

実行してみると、評価額は相変わらず上下するのに、心はほとんど揺れなくなった

“面白さ”は少し減ったが、“続けられること”のほうが長い時間では圧倒的に強い。
最終的に、私のDCは年率5%前後で着地できた。派手さはないが、合格だと思っている。

なによりも挑戦したことで投資について深く理解ができたことが最も大きな成果である。


まとめ|投資を面白くするのではなく、投資で人生を面白くする

企業型DCは、会社がくれた投資の練習場だった。

投資信託で分散を知り、海外投資で為替の波に揺られ、スイッチングの甘い罠を体験した。

結論はシンプル。長期 × 分散 × 低コストを“仕組み”で回す。
感情の出番を減らせば、投資はもっと静かに、そして長く味方になってくれる。

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